7月21日に行われたパイプオルガンコンサートが女性雑誌に掲載されました。

「文化が未来を育てる」下重暁子 
 川上中学校は、車でも遠くから分かった。ひときわ背の高い木造建築の黒い建物。夏休みに入って子供達の姿はないが、木目を生かした床や、枝ぶりそのままの廊下など、木のいい匂いがする。
 休日なので体育館の入り口から入ると、松ぼっくりを模した音楽堂は目の前。正面にパイプオルガンがある。サントリーホールなどの堂々たるものではなく、素朴な村の教会の風情がいい。50人位が入れる室内に木の椅子が並べられ、三々五々腰をかける。私達は右手の一番前。隣に村の小学生がちょこんと座っている。ピアノを習っているので、パイプオルガンも始めたのだそうだ。定刻、村長も演奏会にやって来て演奏会が始まった。
 黒いパンツスーツの佐伯さんの解説と共に、最初はオランダ国歌。彼女の第二の故郷だ。左手最前列にオランダ人夫妻。背の高いオランダ人の男性は弁護士、奥様は日本人。すぐ近くに別荘があるという。佐伯さんに促されて国歌を歌ってくれた。十六世紀の伝承歌をもととする国歌は、サッカーワールドカップで聴いたことがある。
 続いてモーツアルトが8才の時に父と共に訪れたオランダの歌をもとにした変奏曲。そういえばバッハもモーツアルトも最初の音楽との出会いは教会のパイプオルガンだったのだ。子どもの頃のモーツアルトの小曲だが、往年の美しいメロディーが感じられる。オランダは運河の街。どの家の窓もレースや小物で飾られ、通りには手回しオルガンなどストリートオルガンの音が響く。佐伯さんはその都度オランダで自ら撮った写真を示し、説明を加え、写真をみんなに回してくれる。まるでアムステルダムの通りを歩いている様に、かつて訪れた風景を私は思い出していた。
 最後はオランダの大作曲家・スウェーリンクの曲。民謡や自然をもとに作られた曲が、この素朴なパイプオルガンにぴったりだ。小型とはいえ、パイプオルガンを一人で操る事は大変だ。佐伯さんは左右に足を広げ、手は忙しなく鍵盤の上を動く。なんと様々な音が出る事か!
 小さな可憐な音から、荘厳な音楽まで、素朴で手作りの心のこもった音楽会。
 庭に面して用意されたお漬物、手作りクッキー、シソジュースなどで一服して、パイプオルガンの普及や、同じ川上村にあるうぐいすホールという音楽ホールでの演奏会など、川上村への、そして文化の未来への私たちの夢はふくらむのだった。(8/1「女性セブン」より一部抜粋)

投稿日:2019.8.16

News